今か今かと待っていた気もするし

一生来なければ良いと願っていた気もする

密会

ドアが開いた瞬間、肩が竦んだ。体が硬直した。

ギシとスプリングが悲鳴を上げて、体勢が斜めに傾く。



「舞織…」

「…っ」



間髪入れずに耳元で切羽詰ったような低い声が囁かれて

腰から首筋へとぞわぞわと粟立っていく感覚に、思わず身を縮込める。


だが、軋識がそれを許すはずもなく、少々乱暴に肩を掴まれて向き合わされて、

気付けば、甘く熱く苦しく唇を貪られてしまう。


徐々にだなんて言葉をまるで知らないかのように、何かに突き動かされるように

唇を無理矢理抉じ開けて、怯え逃げ惑う舌を絡め取っていく。



「…っん、……ふっ」



鼻に掛かった声が軋識を余計に駆り立てるとは露知らず、舞織は

蕩けてしまいそうな思いを繋ぎとめようと、軋識の手を握り締めた。



くちゅくちゅといやらしい水音が、互いの興奮を高めていく。

舌を持っていかれて、絡められたり歯を立てられたり、さんざ苛められて

舞織は苦しげに切なげに眉を顰め、目を閉じた。



「…ぁ」



器用な手付きでするすると服を脱がされて、緊張が解けてきた体が、また一気に強張る。

口の端から零れる唾液を指で掬い取って、その白い素肌に塗りつけた。



「っ、つめた…」



ふと頭上から小さく声が聞こえた。

どうやら笑われてしまったらしい事に、舞織は唇を尖らせる。



「そう怒るなっちゃ」



子供を宥めるように優しい声が、頭を撫でるその手と共に落ちてきた。

尖った唇をその骨張った指が触れる。

指の腹で数度往復させて、また軽く啄ばんでいく。



「…っふ、ん、んっ………ぁっ!」



片方の手が、淡く色づく胸の突起に触れる。

ビクと体を反らせば、落ち着かせるように優しく揉まれ、むず痒さに舞織は小さく笑った。



「舐めても良いっちゃか?」

「………」

「なァ…」



そうして意地の悪い笑みを浮かべて、優しく頬に口付ける。

良いとは言えない、だが嫌だと言っても触れるのだろう。


言わせたいだけの魂胆が見え見えだけれど、その事すら指摘できないのは

心の深い深い奥の奥の奥底では触れて欲しいと願っているから。


もう一度なァと問われて、ゆっくりゆっくり小さく小さく頷いた。



「…――っ」



赤子が吸うのとはワケが違うソレに、舞織は歯を噛み締めて耐える。



「…あ あっ……っく、や…あ」



先程舌にした苛めのようなソレがまた行われる一方で

空いた手が、ゆるゆると下へ降りていく。


滑らかな手に吸い付くような柔肌を存分に堪能しながら、

ズボンと下着を一気に取り払う。


慌てて閉じようとする膝に素早く体を滑り込ませて、

細く長い足にゆっくりと触れる。



「き、ししきさ…」

「大丈夫だっちゃ」

「んん、ふ……ぅ…っ」



不安げな瞳とかち合って、安心させるように口付ける。

口付けにとろりと酔っている隙を見て、秘所へと指を這わせた。



「、や、…っや……っ」



幼子のようにイヤイヤと首振る様は、軋識の加虐心を煽る。

詫びる気持ちでもう一度唇を重ね、湿るソコへと中指を挿れ込めば、小さくツプと音がした。



「っ、あ」



ビクリと背を反らせて、恥ずかしそうに顔を手で隠す。


暇を持て余した手で、てらてらと光る乳房の片割れを弄ってやりながら、中に挿れた指をゆっくりと出し入れする。



「ま、…っや、やだ…っ軋識さ、ああ ぁ、ん」



どうやら痛みはないようで、甘い嬌声が堪え切れずに、軋識を煽っていく。

段々とスムーズに動くようになる指は、二本、三本と増えていくが、舞織は気付いているのかいないのか、

軋識から与えられる快感に溺れまいと、シーツに顔を押し付けて懸命に堪えていた。



「舞織、」

「、きししき、さ…ん」



辛そうな表情に一度イかせるべきかと軋識が問うべく顔を近づける。

と、舞織は握り締めていたシーツの手を解いて、軋識の首へと回す。


強請られるように口付けられて、軋識はソレ以上のものを与えてやる。

飲み切れずに零れていく唾液は、首筋を辿り濡らしていく。


生理的に零れる涙がきらきらと瞳を輝かせ、その中に映るのがただ一人自分なのだと軋識はほくそ笑んだ。


口付けていて、ああダメだと確信する。

今のがトドメだった。

ずくずくと熱を持った下肢は、どうにもこうにも長く持ちそうもない。


己の若さに嘆きながら、屹立したソレを取り出す。

なるべく怯えさせないように口付けに集中させ、三本の指をそろりと抜いて、ソレを宛がう。



「んんっ」



熱いソレに舞織が体を強張らせる。

が、どうしようもない事に心の中で詫びて、せめてもと一気に貫く。



「んんぅ―――っ…!!!」



痛みか圧迫感かそれとも恐怖にか、ぼろぼろと零れる涙と、助けを求めて背を掻く指を無視して

全てを挿入し切ってしまう。



「…っ、ぅ……く…」



ぎゅうぎゅうと締め付けてくる中に、軋識は小さく呻いた。

達してしまいそうになるソレを寸でで堪えて、辛そうに唇を噛む舞織に手を伸ばした。



「…ひどい」

「……す、まない、っちゃ」

「………あとで全部一人で後片付けして下さいね」

「ああ、するっちゃ」

「じゃあ許します」



目尻に涙を滲ませて、舞織が少し辛そうに微笑んだ。

それでも言葉に嘘はないようで、少しでも力を抜こうとしている事に気付く。



「舞織」

「はい?」

「愛してるっちゃ」

「…え?」



込み上げる愛しさは、軋識に恥ずかしい言葉を零させた。

無意識に落ちた言葉にハッとして、何?と問われる前に律動を開始してしまう。



「ちょ、っ、きしし、きさ…あああ…っ!」



驚く舞織を無視して、知り尽くした性感帯突いてやる。

甘い愛液のお陰で、痛みは取れただろうか

圧迫感は拭えぬだろうからせめてと軋識は願う。

どんな時だってどんな理由だって涙は見たくないものだ。



「やっ、も、と、ゆっくり…っあ、あ…だめっ」

「…っく、…」



ぐちゅぐちゅと互いの混じり合う音が肌がぶつかり合う乾いた音に混じって耳を刺激する。

熱く触れ合う肌が、声が、音が、全てがお互いを煽っていく。



「っあ、あ…いっちゃ…っや、だめっ、だめぇっ」

「ッ…舞織、」

「あああああぁ…っ!!」

「…っく、ぅ…!」



大きく体を仰け反らせて達する舞織に続いて、締め付けに耐え切れず軋識が己を取り出して

舞織の腹に白濁とした液を零した。





うふふ と小さな笑い声が聞こえた。

軋識はそこらに散らばる服を拾い集める手を止めて、ベッドに目を向ける。



「どうしたっちゃ」

「ざまーみろと思って」

「は?」

「背中、」

「?、痛っ」

「痛そうだなぁー…って」



痛いのはわたしだけじゃないんだなーって思ったら嬉しくなっちゃって


可愛らしく恐ろしい事を言うその唇に、自身のソレで触れる。

ベッドにうつ伏せて、薄い毛布を掛けただけの舞織は眠そうにソレを受けた。


シーツの交換も舞織の体を拭く事も既に終えた。

舞織は気持ち良さそうにベッドに顔を埋める。



「あんたの爪なんかじゃ痛みにはならないっちゃ」

「でも今痛いって言ったじゃないですか」

「本能だ本能」



恥ではないですよ、認めて下さい と舞織。

バカ言え と軋識。



「もうすぐ夜が明けますね」

「ああ、片したら戻るっちゃ」

「一緒にいて欲しいな…」

「俺の理性は脆いんだっちゃ、やめろ」

「いつか…」

「ん?」

「いつか、人前でもいちゃいちゃできる日がきますか?」



兄達に自分らの関係を告げたがっている舞織は、真っ直ぐに軋識の瞳を見る。

軋識は、ソレによって世間が家族全員を隔絶してしまう事を恐れていた。


家族一緒ならばとも思う、隠し事をする方が余程とも思う。

だがまだ決断に至れずにいる弱い自分。



口癖になってしまった、ああ、いつかな、を舞織はどう受け取ったのだろうか。

小さく笑って、でも と言葉を止めた。


軋識がこちらを見た事を確認してから一言


密会も楽しいですけどね


と笑った。