「軋識さんっ見て見てっ」

真夜中のクリスマス

突然した声に、軋識は髪を梳いていた手を退けた。



「悪い、起こしたか…」

「起きていたかったので丁度良かったです」



ふふ と笑って、舞織はうつ伏せから横向けへ、体勢を動かす。

緑の瞳が、軋識を捉える。



「…それより、何が見て、なんだっちゃ?」



吸い込まれそうな程の真っ直ぐな瞳に、軋識は舞織の髪を、先程とは違って乱暴に撫でた。

うな と小さく悲鳴を上げて目を瞑る。


次に開いた瞳には、先程とは違い柔らかな色を湛えていた。



「ああ、息ですよ、息」

「息?」

「ほら、こうして…」



はふ と息を吐くと、ほわりと白くなって空気に入り混じって消えた。



「冬なんだなぁ…って」

「当たり前だっちゃ」

「雪でも降りますかねえ」

「さァな…それよりもお前…」



寒いだろうが と舞織の露出した肩上まで布団を引っ張り上げた。



「……」

「何だっちゃ」

「お母さん」

「…お前は親とこんな事するっちゃか?」



軋識はそう言って、ニヤリ と珍しくも悪戯な笑みを浮かべた。



「…えっちですね、軋識さんは」

「ふん、さっきそんな俺に向かってアイシテルだのスキだのと泣いてたのは、誰だったっちゃかな…」

「……意地悪ー」



ぷく と膨れる舞織に、堪らず軋識は、ぶはっ と破顔する。

尖らせた唇に指を乗せて微笑めば、舞織も顔を上げた。



「…?どうした…」



唇が重なりそうになって、舞織の長い睫毛が顔に影を落とし……と舞織は、パチリ と目を開いた。



「……雪…」

「……ッ………ああ、そう」

「ホワイトクリスマスですねー」

「……ああ…」



雰囲気ぶち壊しだ と心の中でそう愚痴れば、それが伝わったのか、舞織は軋識を覗き込んだ。



「…怒ってますか?」

「何で」

「ちゅーし損ねたから」

「アホか」

「…怒ってないですか?」



じぃ と見つめる舞織のその瞳が、また真っ直ぐに軋識を見る。

魅入られたかのように軋識が舞織を見つめれば、ふっとソレが和らいだ。



「やっぱり機嫌悪そう…」

「だったらどうする」

「…んー、ご機嫌を取ろうと思いますよ。折角のクリスマスにギスギスなんてわたしは真っ平ごめんです」

「じゃあ精々頑張るっちゃな。早くしないとクリスマスが終わっちまうっちゃ」

「…うふふ、くすぐった…わたしの機嫌取ってどうするんですか」



ヒヤリ と冷たい細腰に両腕回して引き寄せる。

頬や鼻、額や瞼、首筋から胸元から…露出している部分に唇を落としていけば、舞織は擽ったそうに身を捩った。



「軋識さん」

「ん?」



ちゅ と可愛らしい音を立てて、唇を合わせる。



「メリークリスマスッ」

「…ああ」






サンタさん、サンタさん

プレゼントはいらないから、どうか来年も彼の傍に……