初めて触れる事への、拒絶や恐怖は無い


けれど、とても 不安

嗚呼…

「…ん、…」



先程まで軋識の指が挿れられていたソコに己の指を這わせて。

甘い吐息を噛み殺して、手探りに軋識の男根に、ソッ と触れた。



「…ぁ…っ!」



ヒュッ と息を吐いて。

キツク目を閉じれば、溜まっていた涙が、ポロリ と頬を伝った。



「っ…あっ ぁっ」



その涙を軋識の舌が、ソッ と舐め取った。

爪の先まで痙攣させるように、ビクビク と震えながら、ゆっくりと腰が沈んでいく。



「ッ…舞織…息、吐けっちゃ」

「んっ…ッゃ あっあっ…あ つ…っ」



ツプツプ と軋識の男根を呑み込んでいく舞織に苦痛の表情は無い。

けれど、戸惑いに似た不安げなソレに、軋識は堪らず舞織に口付けた。



「んっ ふ…ぅ っ」



舌を絡め、咀嚼する音が室内に響き渡る。



クラクラするのは、逆上せたせいだろう


舞織に ?

風呂に ?


果たしてどちらに…



「ん、っ…くるし…」

「ああ…悪い」

「…ん、っ っあ!」



名残惜しげに濡れた唇を舐めて、少しだけ腰を突き上げてやる。

舞織は従順に背を反らせて喘いだ。



「…っは ぁ……はぁ………きししき、さん?」

「ん?」



肩に回された手が、大丈夫だと語っているのに、いつまでも動いてくれないのは何故だろう…

霧がかった思考では考える事すらままならない。


物欲しげに艶めいた瞳を向ける舞織に、ソッ と口付けた。



「自分で動けっちゃ」



甘い口付けと、辛い言葉。

舞織は眉を寄せて軋識を見つめる。



「……鬼」

「別に俺はこのままでも構わないっちゃ」

「…鬼畜」

「煩いっちゃ」

「だって…んあっ」



非難の言葉は、甘美な嬌声に掻き消される。


少しの刺激にも過敏に反応してしまうのが酷く憎らしくて、結局は逆らう事もできず軋識の思うように動いてしまうのも悲しい

と、舞織は心の中でぼやいた。



「…ん…っ」



ちゃぷ と湯船が波紋を作った。


挿入されきったソレに腰を上げて下ろしてを繰り返し、内壁を擦って快感を得る。

浅いところを行き来する事しかできない舞織は、困った風に軋識を見遣る。



「…っん …軋識さ…っ」

「ゆっくり、自分のイイところ、探してみろっちゃ」

「できな…い…っ…」

「……」

「お願い…っ」



パシャ と水が跳ねる。


涙に濡れた睫毛が震えているのが分かるほどに近づいたかと思えば、口を寄せた耳元で


動いて…


と、小さく呟いた。



クラクラするのは、逆上せたせいだろう


舞織に ?

風呂に ?


きっと前者である。




溺れているのだ


こんな年端いかない女に

自分は本気で



「あっ あっ っやあぁっ!」

「ッ舞織…っ」

「んっ ぁっ!軋識さ、やっ ひゃああぁっ」



狂おしいほどに愛おしくて…



「舞織…っこっち向け…!」

「っふあぁっ あっあぁっ」



激しい突き上げに、舞織は、ガクガク と体を揺らせる。

俯いたその表情が見たくて、腰に回した両の手の左をそのままに、右手を頬に添えた。



「舞織…っ」

「んっ!ふぅ…っん!んっんっ ぁああっ」



貪るように唇を奪って、深く深く貫いて。



「あっ い、いやッ!…イっちゃ…っ!」

「…くっ…」



ふるふる と首を振って逃れようとする舞織を押さえつけて、奥深くへと貫いた。

弓形に背を反らせて達する舞織のそのキツイ締め付けに耐え切れずに、後を追うようにして達してしまう。



二人分の荒い呼吸だけが室内を支配する。


額から零れた汗が、湯船に落ちて波紋を作る。

変わらず白濁とした乳白色した湯船の白が、一層濃さを増したように見えた。


* * *


じとりとした視線から逃れようと、自然を装って腰を上げる。



「わたしが腰痛くて動けないのに、どこ行こうってんですか」



刺々しい言葉に、ギクリ と体が静止した。

ギュウ と握られた服の端、指先が白くなるほどに力が込められている事は明々白々。



「いや、あの…ちょっとトイレに…」

「一分以内に帰って来て下さいね、右手使えるんだから簡単でしょう」



ニッコリ と。

何も無ければ極上の笑顔であろうソレも今だけは素直に喜べない。


「右手」をわざとらしいまでに強調してみせた舞織に、軋識は気まずそうに目を逸らした。



あの時は、それどころじゃなかったためか、右手が動いている事実に気付かれる事はなかった。


だがその後、立つ事すらままならなくなってしまった舞織を抱えて自室へ運んだのも、後始末をしたのも自分一人である。

バレて当然といえば当然である。



「これ以上嘘付くと本当に怒りますよ」

「……悪かった」

「そう思ってるなら、もっとこっち来て下さいよ」



軋識の少し大きめのベッドに寝転がったまま、舞織は隣を、パンパン と叩いた。

大人しくそこに腰を下ろせば、舞織が腰に腕を回してきた。



「まいお…」

「わたし、怒ってるんですからね」

「…ああ」

「ついて良い嘘と駄目な嘘があります」

「…ああ」

「ああ、しか言えないんですか」

「悪かった」



謝って欲しいわけじゃない…

ポツリ と呟いた声があまりにか細くて震えていて、軋識は居たたまれず舞織の髪を撫ぜた。



「心配…してたんですから…」

「…」

「そういう嘘は、もう絶対につかないって…約束して下さい」



見上げる舞織の瞳は少しだけ涙に濡れていた。



「ああ…誓う」



瞼に唇を寄せて、そっとそう囁いた。


閉じた瞳から零れた涙が、ベッドに小さな染みを作った。






濡れた瞳が笑みに変わるまで、幾度となく、口付けを交わし合った。




長々と続きましてすみませんでした。続編が出る…かも知れません、が期待はしないで下さい。
ここまで読んで下さってありがとうございました。