ぱしゃんっ

嗚呼…

「んっ、んぅ、…ふ、はぁっ」



ちゅう と深く深く重なるその唇が、ふと離れる。

ツゥ―… と伝った銀の糸が、ぽたり と湯船に小さな波紋を作った。



「顔…」



触れられたところに熱が集まって、ジ…ン… と体中に熱が駆け巡っていく。

頬に温かくて大きな掌が添えられた。



「え?」

「真っ赤」



可愛いっちゃ なんて囁かれて、急に気恥ずかしさが目を覚ます。

真っ赤になったであろう顔を見られたくなくて慌てて視線を逸らすと、上から小さく笑う声が聞こえた。


こつ と舞織の頭が軋識の胸板に寄せられる。

ドクドクと規則正しい心臓の音がして、その音に重なるように自分の心臓も鳴り響いていく。



「大好き」



自然と出た言葉に、嘘は無い。

けれど、言った言葉の恥ずかしさに舞織は更に顔を赤く染め、軋識は嬉しさに頬を緩めた。



「舞織、顔上げて」



つ と顎に手が添えられて、促されるままに顔を上げる。

ふと、軋識の頬も赤い事に気付いて、その赤く染まった頬に手を添えた。



「うふふ、熱いですね」

「湯が熱いからだっちゃ」

「うそつき…んっ んっ」



舞織の両腕が、軋識の首に回る。


乳白色の湯船から時折に垣間見えるそのたわわな乳房に吸い寄せられるようにして、右手を動かしそうになって、慌てて左手で触れる。

右手が動くようになった事をまだ舞織には知らせていない。


邪な思いで隠している事への罪悪感が、ズクリと心臓を締め付ける。



「…きししきさん…?」



きょとんとした、けれど潤みに濡れた瞳が、軋識を見つめる。



「何でもないっちゃ」

「ッ あっ」



ソレを見た時には罪悪感などどこへやら。

下腹部の中心に熱が集まるのを感じながら、這わせた手に余る乳房を愛撫する。



「逃げるな」

「ァッ…っんんっ」



腰を捩ってその手から逃れようとするものの、横抱きにして座らせたために体の自由がきかない。


与えられる愛撫一つ一つに、びくびくと素直に反応してみせる舞織に気を良くして、軋識は突起を指先で弾いて遊ぶ。



「ッぁあっ ぃやあぁ…っ」



揉みし抱くような緩やかな愛撫が、刺すような痛みを伴う愛撫に突然と変わり、舞織は小さく悲鳴を上げてイヤイヤと首を振る。



「ここ?」

「あっ やっ、ぅっ…きししきさっ!!」



じわじわと迫ってくる快感に呑まれまいと自分の名を呼び、自分に縋る舞織が愛おしくて愛おしくて堪らない。

早く舞織の中で感じたいと、本能が限界を叫ぶ。



「舞織…っ」

「…ん、ぁ…」



ソッ と太腿を撫で上げれば、ソレで通じたのか、舞織は腰を浮かせて、軋識を跨ぐようにして膝立ちへと体勢を変えた。



「悪いな…」

「…いえ」



恥ずかしさからなのか、湯の熱さになのか、赤く染まった舞織のその頬に唇を落とせば、しっとりと汗ばんでいた。



「…っぁ…」



足の付け根を指先で、つ… と撫で上げると舞織は肩を揺らして軋識に縋った。



「挿れるっちゃ」

「、う、うんっ ッア ぁ!」



骨ばったその人差し指が繁みを割って、侵入してくる。

苦しげに眉を寄せ目を瞑って、ソレに耐える姿に申し訳無さが込み上げるが、引き返す事など到底無理に思えた。



「悪い」

「…っぁ、っん ぇ、なにっ ?」

「何でもないっちゃ」

「ひっ、ぁ…熱っ!軋識さ、お湯が っ」



ソレは何の侘びなんだろう…?

訊ねようにも、襲ってくる快感が邪魔してうまくいかない。


自分の体に合わせるようにして揺らめくその湯が、出し挿れされる軋識の指と共に舞織の中へと挿ってくる。



「ッああぁあっんぐ んんんっ!!!」



途中からの嬌声は軋識へと呑み込まれる。

一際大きくふるりと震えて、舞織は軋識へと凭れ掛かった。



「…は、…ぁっ、あっ、きししっ 待っ…ああぁ、んっ」



達したばかりの体はとても敏感で、未だに愛撫を続けてくる軋識が憎らしくなる。

悔しくて、回した背中に、ギリリ と爪を立てた。



「ッつ…馬鹿、お前…」

「だって、あっ あっ、もっ…っはぁ、んっ」

「俺だって限界っちゃ」

「あっ も 挿れて 良い、っから!やめっ」



中を蠢く指はいつの間にか三本に増えていた。

ソレら全てがバラバラに、そして的確に舞織の性感帯を擦ってくる。


再び達しそうになったところで、ようやく指を抜かれた。



「じゃあ、舞織が挿れるっちゃ」

「…は、はぁ……ハァ?」

「ハァ?じゃないっちゃ、片手しか動かないのにどうやって挿れてやれば良いっちゃ」

「…あ、…」



舞織はハタと気付いて軋識のその右手を見遣った。

もはや巻く意味を無くした包帯が水気を含んで、その傷を浮き立たせていた。



「…今日、だけですよ」



渋々と、口を尖らせて悔しげにそう言った。



「悪い」



表面上では申し訳無いという色を出して、内面では大きくガッツポーズをかましていた。

このためだけに軋識は右腕が動かないと嘘をついたに等しい。



普段ならば絶対に自分からはしないだろうソレも、致し方ない状況下ならばせざるを得ない。


ゆっくりと膝立ちをして挿入する体勢を取る舞織の腰をゆるりと撫でる。

ビクリと反応してこちらを睨むその姿でさえ、愛しさが募った。