部屋から聞こえるは、卑猥な水音。

嗚呼…

「んっんっ ぁ、…っふ…っ」

「舞織っ」

「ぁっ きししきさっ…ふ…ぁっ」



動かない右手を案じてか、ベッドに沈み込んだ軋識の上に舞織が跨ぐようにして乗っている。


与えられる口付けに、馬乗りも良いな… などと思っていたのは果たして何時間前の事だったか。

結局我慢ならなくなって、左手で舞織の高等部を押さえつけて、その甘ったるい唇を貪っていた。


廃屋で交わした口付けなど回数に入っていなかったようで、一ヶ月振りの舞織の感触は相変わらず甘くて痺れて病み付きになる麻薬のようだった。


足りない足りないと貧欲になっていく心を抑えて、一旦唇を離した。



「舞織、脱げっちゃ」

「…え?」



思考がとろけてしまったのか、恍惚とした表情で首を傾げられてしまう。

だから… と口を耳元に寄せると



「伊織ちゃーん。夕飯できたから降りて来てくれるかーい?」

「…ぇ、あ…っはーい」



階下から聞こえた双識の声に、舞織は、ハッ と意識を戻した。

慌てて部屋を出て行こうとするその腕を掴む。



「…舞織ー…」

「…んー、ちょっと待ってて下さいねー」



ちゅう と。

苦笑いと共に、額に唇が押し付けらる。


間の抜けた軋識の顔に満足そうに舞織は微笑んで部屋を出て行ってしまった。



「……チッ」



舌打ちをして、重力に身を任せて、ベッドに倒れ込んだ。

ふと青白い光が差し込んできたので、窓に目をやれば、月がボンヤリと雲の隙間から顔を出していた。



いつの間にかやってきた夜に目を向けながら、未だ熱を持ったままの自身に小さく溜息を零した。





「お待たせしましたー」



ふらりふらり と危なっかしい足取りで舞織が部屋のドアを閉める。

自分の分は急いで掻き込んで、軋識の分の夕飯を両手に部屋へ戻ってきた。


は、良いのだが



「…あー、これは完璧に寝入っちゃってますねー」



年不相応にあどけない、そして無防備な寝顔を、明るんだ蛍光灯の元に曝け出している軋識に、舞織は小さく息を吐いた。



「ムラムラきてるのって、わたしだけなんですかー?」



口を尖らせて、その頬を指で突付いた。

けれど、反応は無い。


再度息を吐く。



「……お休みなさい、軋識さん」



チュッ と可愛らしい音を立てて、唇が頬に触れる。


パチン と部屋の明かりを消して、持って来たばかりの食事を片手に持ち直し、舞織は部屋を後にした。