たった一言

たった一言だったけれど、私にはソレがまるで、最終宣告のように…

愛の告白のように聞こえたのだけれど…

幸せについて本気出して考えてみた

けほっ と小さな咳が零れた。


一人きりの部屋では、ソレも酷く大きく響いた事だろう。

けれど、今日は珍しく、一人ではない。



「風邪か?」

「……違う…と思うけど…」



視線がこちらに向けられる。

と同時に、パカッ とソレが開く音がした。


は小さく首を振って、 ―けれど予想外に― 掠れた声で応じれば、あっそう と素っ気無い返事が返ってきた。


人識は、冷蔵庫から沢山のフルーツが盛られたカップを手に取って、向かい側のソファに身を沈めた。

蓋の「双識」という文字にが気が付くと、人識は、にんまりと笑ってを手招いた。



「?なぁに」

「あーん」

「え、あ、あーん…?」



瞬間、じんわりと口内に広がる甘酸っぱさに、はうっとりと目を閉じた。


大きく開かれる口を真似て開いてみれば、スプーンで乱暴に掬い上げたフルーツを口の中へと放り込まれてしまった。



「これで共犯だぜ、兄貴には黙っとけよ」

「…!ひどい…!」

「かははっ、欲しそうな目ェしてたくせによく言う」

「し、してな――…」



バタンッ


瞬間、ドアの閉まる音。

その音に、ハッ として、は立ち上がって、そちらへと駆けていった。


ふわり と靡いたその長い黒髪を見ながら、人識はそのスプーンで真っ赤なイチゴを、ぐさり と突き刺した。



「お、お帰りなさい…っ」

「ああ」



玄関へと駆ければ、やはりその人物。

その人、軋識は自分を、ちらり と見遣ってから、また視線を落として履物を乱暴に脱いだ。



「、あ…あの」



「はい…っ」



軋識が部屋に上がるのと入れ替わって、はしゃがみ込んで履物を揃え並べた。

上から掛かった言葉に素早く反応して立ち上がる。


と同時に、キツク キツク 抱き締められた。



「きっ、軋識…さん?!」

「…サン付けはやめろと言ったはずだ」

「!…ごっ、ごめんなさ、…い」



自身の失態に、しゅん と肩を落とすを叱るでもなく慰めるでもなく、軋識は、何も言わずに顎に手を添え、上を向かせた。



「…きし、…しき…?」

…」



何度呼んだか分からないその名を、囁くように呼んでみれば、少し恥ずかしそうに微笑む彼女がいた。

ソッ と触れるだけの口付けを交わして、体を離す。



「…部屋に、戻れ」

「……え…?」

「また勝手に、部屋を出て…何をしていたかは知らないが……他のヤツとは会うなと言ったはずだ」

「っごめんなさい…私…」

「いいから…戻れ」

「…っ……」



はい という言葉は、掠れ弱弱しく、背けられた顔にはきっと涙が滲んでいただろう。

階段を駆け上がる音を、そしてドアが閉まる音を聞いてから、軋識はリビングへと、足を動かした。