眠い

眠くない

眠い

眠くない



「……眠いに決まってるじゃないですか」

Once again

山は下りた。


もやもや と朝靄の掛かった山にも関わらず、まるで毎日往復していたかのようにすんなりと下る事ができた。



「…とりあえずこの失血をなんとかしなくては…」



ぼたぼた どくどく

左側頭部と右の太腿からは、どこにそんなにあるのか惜しみなく鮮血が流れていた。



「失血死だなんて、笑えないです」



うふふ と空ろな瞳で舞織は一歩一歩、右足を引き摺るようにして、どこまでも続くような一本道を歩いた。



「………お、コンビニ発見」



右を見ても畑、左を見ても田んぼ。

田舎だなぁ… などと現状にそぐわない思考はいつもの事。


そんな場所に不釣合いで不似合いなコンビニが一軒、ポツリと建っていた。

これが失血し過ぎの幻覚で無い事を祈って、自動ドアの前に立った。



ウィー…ン



手動だったら恥ずかしいな という思考は杞憂。

コンビニはコンビニだった。

人を察知して開いた入り口に自分の体を滑り込ませた。


早朝特有の外の涼しさとはまた別の、ヒヤリ とした鳥肌の立つような風が舞織の体を通り抜ける。



「いらっしゃいまー…えっ!?ちょ…あんた大丈夫っ!?」

「これで買えるだけの止血品下さい」



自分と大して年齢が変わらなそうな女の子が驚くのを一先ず無視して、ポケットから札束を取り出した。

と言っても、たった三千円。

帰りのバス代や電車賃を考えれば今出せるギリギリの額だった。



「え…あっ、あの…?」

「ああ、そっか。コンビニはそういうの売ってないんでしたっけ?じゃあ絆創膏とか、その類のモノで良いです」

「…は、はいっ、ちょ、ちょっとお待ち下さい!!」



堂々のスルーに一瞬怯んだものの、今最優先すべきは傷口をふさぐ事だと判断したのか、女の子は慌ててレジから出て店内を駆け走った。



「はいっ、こ、こんなものかな…っ」

「じゃあソレ全部下さい」

「分かりました」



ピッピッ とバーコードを読み取って、数字がどんどんと増えていく。



「あの…本当に救急車呼ばなくて良いんですか?」

「結構です、ありがとうございます」



お釣りと袋を受け取って、また堂々のスルー。

まだ何か言いた気な彼女に背を向けてコンビニを出た。


ガラ空きの駐車場の一角に腰を下ろして、袋の中身をコンクリートにぶちまけた。

箱を開けて傷の消毒に眉を顰めながら、まだまだ日が昇らない空を見上げた。



「人識くん…」



会って、抱き締めて、口付けて、心配した顔して、それから怒って、また抱き締めて…


次々浮かぶ顔に、何故だか涙が溢れた。



「ッ…早く帰らなくちゃ」



ガーゼに落ちた雫を振り落として、掌で瞳を擦る。


擦っても擦ってもハッキリしない視界は、涙のせいか、失血のせいか。



「う、うぅ…っ」



ああ、早く会いたい…