息継ぎもできないほど深く求められて、舞織の頬を生理的な涙が伝う。



「舞織…」

「ん、ぅ 人識く、ッ…ぁっ」



舌で涙を舐め取って、手は悪戯に太腿を撫で回す。

元より体温の低い人識の手と、露出していたとはいえ、人識の頭が乗せられていた舞織の太腿とでは温度差があり過ぎた。


手の冷たさにビクリと肩を震わせて、舞織が人識に縋りつく。

そんな舞織をあやすようにそっと髪を撫でて、それでも片手は太腿を這うのを止めない。


小さく喘ぐその声が、鼓膜を震わせるのを感じながら、自分の体重を舞織に掛ける。

さすれば、その重みに舞織が堪えられるはずもなく、雪崩込むようにしてソファに沈み込んだ。

愛のシルシ

温度調節の行き届いた部屋は、暑過ぎる。

人識は乱雑に上着を脱ぎ捨てた。


その際、騒がしいテレビもブツリと消して、けれど辱めを与えるように、電気は点けたままに。



「舞織」



上半身だけ起こして服を脱ぎ捨てた人識と対象的に、舞織はソファに沈み込んだまま、そっぽを向いている。


暗闇であれば、機嫌が悪いのだろうかと勘繰ってしまうソレも、明るい所では、赤く染まった頬を隠す事もできなくて。



「ま い お り」



一言一言区切りを付けて言葉を放つ。

そっと頬に触れれば、上目遣いで睨まれてしまう。



「えっちする時は、ちゃんと俺を見てろって言っただろ」

「……」

「俺を……俺だけを、な」



こつり と額を合わせれば、舞織は小さく頷いた。

尖ったままの唇に、自身のソレを可愛らしい音までさせて押し当てる。



「一緒気持ち良くなろうな」



耳を擽るようにして、言葉を送り込めば、舞織は、はにかんだように笑って身を捩った。


可愛いなあ なんて柄にもない事を思いながら、舞織の服をべろりと捲り上げる。



「…っひ、うっ」



豊満といえずとも、手に余るサイズのソレを、形が変わるほど揉み拉けば、苦痛と悦楽の混じった表情に歪む。

ふにゅふにゅ と弄りつつも、突起を捏ね繰り回せば、次第に硬くしこってくる。



「ひゃ、うぅッ…ああっ」



ちゅう と乳房を吸い上げてやれば、舞織は何かを拒むように首を振った。



「気持ち良かった?」

「…っやっ、んんっ」



てらり と艶かしく光る胸に慈しむように触れてから、その手はそのまま下へ下へと下りていく。

腰のラインをするりと撫でて、臍を通り、フックを外して、下着ごと、スカートを取り払う。



「びっしょりだな」

「っ、言わな…ッんあぁっ」



ぐちゅぐちゅ と溢れ出る泉を潤滑油に茂みへと指を滑らせて、それから花弁を開いて、そのまま指を挿入させる。

グッ と唇を噛んで、悦楽に呑まれまいとする舞織のその姿は何とも婀娜めかしくも、可哀相で。


早く楽にさせてやろうと、内壁に指を擦らせる。



「あっ あっ…やっ、」

「ん?」

「人識く…っふ あッ、まっ…てっ」



指を増やして、ビクビク と反応する場所を攻めたてると、舞織は足を突っ張らせて、喘いだ。

けれど、いつもと違って、人識の胸板を、グイグイ と押す様子に、中を蠢かしていた指を一時中断させる。



「どうした?」

「…ッは、ぁ…はぁ…っ、…しょ に、」

「…?」



苦しそうに目を瞑り、それでも懸命に放とうとする言葉は途切れ途切れで、よく聞き取れない。



「っ…しょに、いきた……っ」



耳を近づけてやると、荒い息と共に、微かな言葉が流れ込んできた。


けれどそれは、あまりに都合が、自分の都合が良いように聞き取っていないだろうか と不安が過ぎる。



「もっかい、言って」

「……っ」



けれど本音を言えば、もう一度、ハッキリ聞きたくて。

欲しいのは自分だけじゃないと、知りたくて。言葉を求めるように指で唇をなぞる。


舞織にもソレは分かっているようで、眉を顰められた。


それでも引き下がらずに強請ってみれば、渋々と口が開いた。



「いれて」



単純明快なその言葉に、理性を捨て去りたくなった。

が、そんな凶悪な感情は心の奥底へと抑え込んで、何とか平静を保つ。



「…暫く動けないようにしてやっからな」



翻弄されっぱなしじゃねえか、かっこ悪い と脳のどこかが自分を嘲る。

悔し紛れにそんな言葉を吐いても、舞織はただ静かに笑っていた。


敵わねえなあ… と心の中でそうボヤいて、ソッと口付けた。



「……力、抜け。ンな痛くねえはずだから」

「、う、ん…」



中に入っていた指をずるりと抜いて、愛液に濡れたソレを口に含む。

この行為を舞織が嫌がると知っていても、やはりやめられず。


眉を顰めっぱなしの舞織に思わず苦笑してしまう。


ごめんの意味を込めて唇を舐めて、やはり嫌がると知っていながら、口を抉じ開けて舌を絡める。



「んん、んむぅ…っ」



深く深く貪りながら、口付けに酔い痴れている隙を狙って、屹立した己をゆっくりと沈めていく。



「んんーっ!」

「ッ…つ…っはぁ…ッ息、吐け」



挿入し切ったは良いが、突然の挿入に驚いたのが、ぎゅう と締め付けられてしまう。

唇を離して、大きく胸を上下させて、苦しそうに息を吸い込んで吐き出させれば、キツかった締め付けも幾分か楽になった。



「はぁ 動くぞ」

「…う、んっ、ひゃっ ああ!」



ぐち と粘着質な水音が鼓膜に響く。



「あっ、ああっ」



肌のぶつかり合う音も、舞織の嬌声も、結合部から絶え間なく漏れる水音も。

触れる指先から、聞こえるソファの軋む音まで、全てに情欲を掻き立てられ、人識は本能のままに腰を打ち付けた。



「ッやっ、あっ!ひとし、きくっ…ひゃあぁっ!んああぁ…ッ!」



いつにない激しい抽挿に、舞織は人識の背中に爪を立てる。



「…ッつ…っ舞織…!」

「やああっイっちゃ…っああぁあっ…!!」



ブツリ と音がした。



達した舞織の締め付けに耐え切れず、ドクンッ と脈打って、人識も熱い情欲を舞織の腹に零した。


















































「あああぁああ!」

「っ、どうした?」



突然の悲鳴に、心臓が上へと跳ね上がる。

振り向こうとすれば、そのまま と制された。



「せ、背中に、爪跡が…」



震える声で、そんな事を呟きながら、背中をソッとなぞられる。

なぞられたところを針刺すような痛みが襲ったが、人識はそのままソファを拭き続ける。



「気にすんなよ、ンな事」



そーいや、引っ掻かれたな と思えば情事の記憶が蘇ってくる。

もう一回、などと言えば、今度はきっと頬が赤くなるだろう、俺の頬が と熱が集まり出す下半身に静まれと命令を下す。



「でも…」

「オアイコだからさ」

「え?」



首を傾げる舞織に、人識は、拭き終えた雑巾をごろりと床に放り捨てる。



「ほら、な」

「ッ!!」



毛布に包まれた舞織から毛布を剥ぎ取って、たわわな乳房にそっと触れる。

そこには、赤い華が散りばめられたように、鬱血が胸元に沢山付いていた。



「い、いつの間に…」

「な、オアイコ」

「……っ」



わなわなと震え、涙ぐむ舞織はとりあえず無視して。

時計を見遣れば、そろそろ寝なくては、明日に響いてしまう時間。


兄達が帰ってきてしまえば、堂々と抱き締める事すらままならない。


何だか急に一分一秒が惜しくなってきて、人識は舞織をキツク抱き締めて、旋毛に、ちゅう と唇を落とした。



「ンな事よりさ…もー少し、こうしてようぜ」

「……こんな事じゃごまかされないんですからね」

「ああ」

「これから一週間、食事当番代わって下さいね」

「ああ」

「……人識くん」

「ん?」

「……大好きです」

「ああ。俺もダイスキだぜ」