「うわあ、キレイ……」



魔法みたい と微笑む舞織に、人識は静かに笑みを零した。


明かりが小さく灯るだけの暗闇の中で、透明な液体がピンク色へと変化していく様は何とも幻想的で、からかうように笑う人識に構わず、

舞織はうっとりとしてソレを見つめた。

くらくら

通販したソレは、粉末状のモノ。

危ないものかと危惧する舞織に、人識は、ふふん と笑ってみせた。


キッチンから持ってきた水の入ったグラスにソレを入れると、透明だった水が見る見るうちに淡いピンク色へと変化した。

外国の飲み物らしく、本場のモノは値が張るから、妥協して粉状のモノを通販したんだ と人識は言った。



「お酒ですか?」

「だったらあんたに飲ませたりしねえよ」

「じゃあジュースですか」

「カクテルだよ」

「ぶっ」



あーあー、勿体無ぇなぁ… と笑う人識に恨みがましい視線を送る。

こっくり と口に含んでしまったソレは既に喉を通ってしまった。



「……美味しい…」

「だろ?」



甘ったるいその味に、舞織は、もう一口、もう一口、と遂にはグラス全てのソレを飲み干してしまう。



「明日が休日で良かったなぁ?」

「……」



黙っててやるから安心しろよ と人識もグラスに口をつける。

服装はともかくとして、なんと様になる姿だろうか。


ぽやーん と見つめる舞織に気付いた人識は、ふと表情を笑みから険しいものへと変えていく。



「…顔、赤いけど、大丈夫か?」

「…へ?」



ゴトッ――


空っぽになったグラスが、手から滑り落ちて床へと転がった。

随分ゆっくりとした動作で、転がってしまったグラスへと目を動かす。


割れてないかな と手をソレに伸ばそうとして…



「…あ、れ?」



一つのハズのグラスが、いくつも見える。



「舞織…?」



人識の声が随分と遠くに聞こえる。



「ひ、としきく…」



自分の意思に反して閉じていく瞼に、舞織は眉を顰める。


もやもやと霧掛かってゆく思考に、舞織は抗う術無くして、ベッドに沈み込んだ。



グラスには、膝立ちしたまま、口を弧に歪める人識の姿が映し出されていた。