「舞織…もう一度だけ…」

「…ん」



数え切れないほど交したその口付けは、変わりないソレだった。


それでも涙が溢れて零れてきた。

ソレを拭おうとする人識を遮って、先程よりも深く唇を合わせた。


戻ってくる時は笑顔でいるから と言い訳して…

Once again

―――三十分前。





「何でこいつに命が下ったんだよ」



ソレに、舞織より先に反応したのは人識だった。

双識は苦々しい表情のまま続ける。



「途中参加であろうと、覚醒したばかりであろうと、伊織ちゃんはもう零崎だからね」

「だけど!」

「人識、コレは揺るがない決定だっちゃ。断れば舞織はいよいよここにいられなくなる」



仕方ないんだっちゃ と言い聞かせるように軋識が呟いた。

ギリ と膝の上で握り拳を作る人識のその手の上に、舞織がと自身の手を重ねる。



「人識くん」

「…ぜってぇ、行かせねぇ」

「わたし、行きますよ」



その言葉に、三者三様の反応が返ってきた。

苦笑いを湛えて、舞織は言葉を続ける。



「行くって、決めたんです」

「俺が駄目だと言っても、か?」

「…はい」



揺るぐ事ない瞳が、真っ直ぐに人識を見つめる。

沈黙を破ったのは、人識の大袈裟な溜息。



「絶対に、帰って来ると約束しろ」

「…っはい」



いつもは人目を気にする人識が、ましてや身内の前で、優しく切なく、そして寂しそうな表情をしてみせた。