「それじゃあ、行ってくるね」

「お土産を忘れないで下さいね!」

「別に俺達は遊びに行くわけじゃないっちゃ…」

「任せといて!」

「……レン」



グッ と舞織と双識がお互いに親指立てて微笑み合う。

人識は一歩後ろから、その表現は古いだろ… などと思いつつ、殆どの意識は別の方へと向けられていた。


…あ、ヤベ、ニヤける。

緩む口元がバレぬよう、咄嗟に手で隠した。



「人識、伊織ちゃんと仲良くね」

「んー……それより、時間は?」

「ああ、本当だ。もう行かなくちゃ。それじゃあね二人とも」

「行ってくるっちゃ」

「「行ってらっしゃい」」



バタン、とドアが閉まった。



「さぁ、人識くん、仲良くしましょう!」

「おう」



遂にコレを使う日が来た…

にゃんにゃんにゃん

「で、これは何なんですか?」



只今、朝の9時を回ったところ。

兄貴達が家を出てから約一分後。


俺は思い立ったら吉日タイプ、というわけではない。

寧ろ、精密で精巧で巧妙で隠密で完膚なきまでに完璧主義な計画犯だ。



「…もしもーし?人識くん?寝ないで下さいよう!」

「ん、あ?悪ィ。で、何だっけ?」

「だぁかぁらぁ!コレは一体全体何なんですか?」



チリン と可愛らしい鈴の音が舞織の膝に置かれているその箱の中から鳴った。



黒が基調とされたソレ。


臍が見える短いノースリーブのシャツに、これまた短い短いミニスカート。


小道具として、赤い色した小さな鈴付きの首輪と、カチューシャに付けられたモコモコの耳。

それから、首輪とお揃いの赤いリボンと鈴が先端に付いている尻尾。


ちなみに尻尾の根の部分にはアレが付いていて…

アレというのは、まぁ、追々説明しよう。



舞織に尻尾以外のソレらを渡すと、何ですか?これ と首を傾げられた。



「うん?これ、これか?猫の服だなよなあ?それ以外の何に見える?」

「そうじゃなくって!何でこんなものを人識くんが持っていて…いえ、持つのは個人の自由ですけど…それをどうしてわたしに見せるんですか?」

「俺さあ、猫がスキなんだよなあ」

「え?人識くんは犬派ですよね」

「男心と秋の空」

「ソレをいうなら女心と――」

「だからなー、俺なー、今猫となら仲良くやっていけそうな気がするんだ」

「…」



そこで、舞織の瞳が少し見開かれた。


…関心を持ったな。


人識は表面上平静を装いつつ、心の中でガッツポーズをかました。



「…仲良く、なれるんですか」

「ああ、俺は今猫を凄く凄く物凄く!可愛がって甘やかしてやりたい気分なんだよ」

「……」



ふにゅ と眉が下がる。

信じ掛けて見つめてくるその純粋な瞳に、ぐらぐらと揺さぶられる。


ああ、押し倒してしまいたい…!



「ああでも、舞織はこんなの着ないよなあ。」

「……ぅ…」

「んなビビんなくても良いぜ?無理強いはしないから」

「…ぅ、あ…」

「けど困ったな…俺は今、物凄く猫を抱き締めて擦り付いて甘やかしてキスかましてやりたいんだよなあ」

「…ぁー…、ぅー…」

「しゃーない。そこらの女に着ても――」

「っ私が着ます!!!」


……ゲット!