「人識くん人識くん人識く〜ん」



えへへへー と舞織が人識に抱き付いた。

スキンシップ

「…ん?どした?」

「スキンシップですよー」



人識が優しい顔つきで舞織の髪を撫でてやると、舞織は嬉しそうに、にゃぁん と甘ったるい声で鳴いた。

猫のような仕草で擦り寄る舞織を見て、人識の頭をよからぬ事が過ぎる。


どんどんと緩くなる口元をしっかりと引き締めて…。



「……じゃあ、俺も」

「ばっちこいです」



ふふ と笑って両の手広げた舞織に、心の中で謝りつつ。



「…いただきます」

「にゃっ!?」



合掌。



そして世界は反転。



「…にゃん」

「にゃん?」



人識の鸚鵡返しのように、舞織が鳴いた。



「今日は変わったプレイやろうぜ?」

「…にゃんにゃんプレイですか?」

「おう、なりきって可愛く鳴いてくれなー」

「楽しそうですねー」

「そうだね」



「「……」」

「おや。おやおや、二人とも。どうしたのかな、急に固まっちゃって…」

「お兄ちゃん!」

「……っ…てめ…ッ」



わなわなと震える拳を持ち上げて、罵倒と共に顔面を殴りつけやるつもりだった。


そのつもりだったのだが…





シャキィ…ンッ





言葉は途中で呑み込まれる。

胸倉を掴もうとした動きが阻まれる。



「惜しいね。あとちょっとでも動いたら全てを切り刻んであげようと思ったのに」



言葉を失った人識のその喉元には、ギラリと光る自殺志願が、宛がわれていた。

あと少しでも動いていようものならば、その刃は容赦なく人識の首を刎ねた事だろう。



「あっ、危ねえだろうが!」



人識のその言葉に双識はピクリと眉を顰めた。



「危ないのはお前だ人識!伊織ちゃんに何て事を…ッ!!いつからそんな汚らわしい子になったんだっ!」



汚らわしいって…んな、いつの時代だよ…

そんな事を心の中で突っ込んでみる。



「まだ未遂だっつーの」

「まだ…だってぇ?…それじゃあ何かい?ナニなのかい?」



ナニって何だよ… またもやそんな事を心の中でツッコミつつ、邪魔された怒りが沸々と沸き上がって来るのを人識は抑えられそうにない。





「そうそう、俺達ァもうナニなんだよ。だから邪魔すんな!」

「何と言う……ああ、私のせいだ、私の監督不行き届きだ…。だがきっとまだ間に合うハズだ」

「ごちゃごちゃごちゃごちゃ煩えんだよ…人の恋路を邪魔するヤツぁ、殺して解して並べて揃えて晒してやる」

「大概にしなさい人識!」




「…舞織、」



あっという間に蚊帳の外に出されてしまった舞織の肩に、そっ と軋識が手を置いた。

けれど舞織は、それを、パシリ と払い除ける。



「同情するならアレ何とかしてきて下さい」

「それは無理だっちゃ」

「役立たずぅ」



ぷぅ と膨れた舞織の事など微塵も気付かず、人識と双識の戦いは三日三晩続いたそうな。




大好きな蟻穴の蟻喰様の日記の四コマを恐れ多くも文に起こしてみました。
素敵過ぎます、大好きです、らぶ。