doll





doll   〜君はちゃんと生きている〜





その国は発展途上であるにもかかわらず先進国だった。
そして、貧富の差がとても激しく、貧しい者は底無しに貧しく、豊かな者は底無しに豊か。
最下級家庭では親が我が子を売買する事が至極当然に行われていた。


そんな世界、底無しに豊かな者は、ある暇潰しに精を出していた。

それは、貧しい家から、今後一切の断絶を条件として、多額の金で子供を買い、その子供を使ってある実験を行っていたのだった。
勿論、ソレに貢献した親には、今後の人生において一切の生活保障が与えられていた。


豊かな者に仕える科学者達は、その子供の遺伝子を組み換え、細胞を入れ換え、脳の構造を弄り、手術を繰り返した。
そうして出来上がったソレは「doll」と名付けられ、公の場へと姿を現した。

「doll」には、「心」が無かった、感情というものを持ち合わせておらず、主人とされたその人は絶対であるとプログラムされていた。
売って金儲けをしようという事で作られた「doll」だっただけに、科学者の説明は、まさにソレだった。

貧しい者は星の数ほど、富む者も星の数ほど。
「doll」を求める者は後を絶たず、子供を売る者も後を絶たず、その後、「doll」は何十体、何百体と作られていった。


年を追うに連れ、「doll」の性能も進化していったそんなある時。
性があり、食事や睡眠を取る事もできるので、人間と区別が付かない。何か一目でソレと分かる物へと改良して欲しい。
との声が上がり始めた。
その声に答えるべくとして、「doll」は、今までとは一変した「doll-C」というタイプへと変貌を遂げた。
今までの人間の形をしたソレに、耳と尻尾を取り付けたのだ。
登録された声にしか応としないセンサーの付いた耳、何かあった時のためにリセットできる機能の付いた尻尾。

これがまた可愛いと評判を受けて、性処理の道具や子供の遊び相手にと買われていった。


そのうち、「doll-C」タイプしか売れなくなり、初期の「doll」は廃品となった。
そうして瞬く間に、耳と尻尾を持ったソレらが国中に買われていった。


けれど、勿論、実験というものは必ずしも成功ばかりとは限らない。
失敗は成功の倍あったといっても過言では無い。
失敗した「doll」、「doll-C」は破壊されるのが決まり。
人気の無い広場に捨てられ、朽ちてゆくか、ゴミ処理場へと運ばれるか、余程の数の場合はクレーン車で破壊にかかるという。


そして勿論、成功しても、捨てられる事はある。故障する事もある。
修理はできるが、人ではないが彼らも人間、寿命があり、人と等しく必ず最期には死が待っている。

そんな国の、そんな地域での、「doll-C」のお話。