「…ん…んん…?」

「…お、漸く気付いたか。大丈夫か、お前」



人の声に、ゆっくりと目を開ける。


…人の、

男の人の顔、…?

随分可愛らしい……

……ていうか、い、刺青…!!?



「!!!!きゃあああああ!!」

Dear…

「寝込みを襲うのは人として最低です」

「だーかーら!違うっつってんだろ!人の話聞けよ!!」

「信じてたのに!」

「……!!」

「いったあい!お兄ちゃああん」

「人識!!」

「ああもう!俺、泣きたい…」

「お前ら…こいつの存在忘れてないっちゃか?」



三人の男と一人の少女。


二人が喧嘩して、一人が楽しそうに傍観しているところに、一人がツッコミを入れた。

すると今の今まで、ぎゃいぎゃいと騒いでいたのが嘘だったかのように、ピタリと停止した。


……凄い。



「悪いな、いつもこんなんなんだっちゃ」

「い、いえ………あっ……あの……」



ドクッドクッ

心臓の不整脈に、静まれと何度も命じて。



「わ、私の方こそごめんなさい!」



大きく息を吸って、思い切り頭を下げた。



「め、目を開けたら…突然、顔があって!わ、私…男の人に、あ、ああんなに近寄られたの…は、初めてで!動揺してしまって!」



だからごめんなさい!

ゴンッ



そんな声と、鈍い音。

床に頭を打ちつけてしまったその音に、恥ずかしさに涙が滲む。



「はいはい、お兄ちゃん達、退場ー!」



パンパンと手を叩く音に、ゆっくりと顔を上げる。

少女が私の方を、チラと見遣って、にっこりと微笑んだ。



「ええ!まだ名前も聞いてないのに!」

「それより先に事情を聞くのが先決っちゃ!」

「ここはわたしに任せて下さい。大きな男三人に囲まれてちゃ言えるものも言えないです。あ、人識くんは大きくないですよ」

「…別にそこは補足しなくていいとこだろ」

「というわけで」



大人しく待っていて下さいねと微笑む少女に、男三人は閉め出されてしまった。



「さてと」

「……」

「さぁ、思う存分、泣いて下さい」



くるり振り向いたその表情は美しいとも可愛らしいともいえる笑顔で、姉のように母のように親友のように、優しい声色に

私の中の張り詰めていたものが、プツンと音を立てて切れた。



「ッふええぇ…」



泣いて泣いてひたすら泣いて


涙枯れて声擦れて、体力削るほど泣き切って、烏が鳴き出したその頃に、少女は抱き締めてくれていた体を漸く離した。



「わたしは姓は零崎、名を舞織といいます」

「わ、私は…です…」

「…ふむ…あだ名はで決まりかな」

「っ!」

「…お兄ちゃん」

「そん怖い顔をしても可愛いだけだよ、伊織ちゃん」



いつからそこにいたのか…スーツを着た男の人が、ニコニコと微笑みながらドアの所に立っていた。



「あのおっかない刺青と、田舎モノは外出させたから…怖がらなくて良いよ」

「うふふ、一番怖いのはお兄ちゃんですよ」

「おや、失礼な妹だな」



舞織と名乗った少女を伊織と呼んだこの男性の瞳は赤だった。


コンタクトという考えは浮かんでこないほど、美しい赤。

赤い赤い、深紅に近い、赤い瞳に吸いこまれるように、私はその目を見つめてしまった。



「…お兄ちゃんに惚れると凄く厄介ですよ」

「えっ、いや…そんなつもりじゃ…!」



そんなに見ていてしまっただろうか。みるみる熱を持つ頬を気付かれぬよう、俯いた。

舞織さんが、くすりと笑う。



「うふふ、可愛い子は大歓迎だよ」

「ほら、そうやって。だから信用ならないんですよ、お兄ちゃんは」



全く…手厳しい子だろとまた、赤い瞳が愛しさを含めて細まった。



「さて。人識くん達が帰ってくる前に、事情を聞いちゃいましょう」

「…あ、はい」

「私は名を双識という。よろしくね、

「………はぁ…」



多少、引っかかる所はあるものの、それを気にしていられる余裕がどこにあろうか

は、どこから話そうかと頭をフル回転させて記憶を辿りにかかった。