家族の団欒。

殺人鬼にそんなもん…臍で紅茶が沸かせそうなお笑い話だが、実在する。

どこの家庭とも変わらない夕食を口にし、食後のテレビタイム、錯覚しそうになるほどありふれたものがそこにある。



「えー、わたしの好きなタイプですかあ」



本日、会話の口火を切ったのは大将だった。


ソファに身を沈め、テレビに夢中だった伊織ちゃんは、話しかけられて少し機嫌が悪そうだった。



ガッシャンッ



こうして今、コップを落として割ったのは俺。

兄貴が、キッチンから慌てて駆け寄ってきた。



「あーあー、人識、何やってるの」

「あ、ああ、わり、ぼっとしてた」

「で、舞織はどんなタイプが好きなんだっちゃ」



大将は俺の方を一瞥してから、また話を元に戻した。

伊織ちゃんは暫く俺を見つめてから、大将に向き直った。



「そういうあなた、たいしょーさんはどんな子がお好きなんですか?」

「は?俺?いや、今は舞織の…」

「わたしの見たところによると…まだ未発達の少女がお好きなのではないですか?」

「伊織ちゃん鋭い!」



すかさず割り入った兄貴に、大将からのきつい眼差しが飛ぶ。



「そんなことはないっちゃ!」



そんなこと大いにありそうな慌てぶりである。さっきの兄貴への牽制も併せて、伊織ちゃんの正解とみて間違いなさそうである。

…大将、捕まるなよ。



「ふうん」



伊織ちゃんは、そんな怪しげな大将の素振りに気付いてか知らぬふりしてか、特に追求することはなかった。



「じゃあ…」



代わりに体を起し、軋識の座るソファまで四つん這いで近づいて、意地の悪そうな笑みを浮かべた。



「わたしとか、好みではありませんか?」

「は…!?」

「ぴちぴちの女子高生ですよう、肌はすべすべ、髪はつやつや、頭脳も優れてプロポーションだって抜群ですよう」



なんて自分で言ったら世話ねえよな。

伊織ちゃんは大将の様子を見て ―大将の様子は言うまでもない、赤面硬直である― 楽しんでいるようだった。



「伊織、実はたいしょうさんみたいなひと、好みなんですう」

「は…!?は!?」



思い切りの上目遣いと猫撫で声とで、ソファに仰け反る軋識の元へ覆い被さる伊織ちゃん。


その気はないのだと分かっていても、なんとなく、見てはいけないものを見てしまっている気分だった。



「たいしょうさん、わたしみたいなのじゃ…だめですか?」

「…っ……ぁ…っだ、めっつーか…俺達は家族であってだな…」

「伊織ちゃーん、お風呂入っちゃわないー?」

「あ、入ります!」



救済の声か、邪魔な助太刀か。兄貴の言葉に伊織ちゃんは、大将から体をおろして、風呂場へと行ってしまった。

あとに残されたのは、哀れにも女子高生に弄ばれた三十路も近いおっさんだけだった。



「…………大将?」

「……は…」

「え?」

「俺は…どう答えてやれば良いっちゃ…」

「は?」



ぽつりと放った大将の一言に、俺は顔を顰めずにはいられない。



「私はね、アスは流されやすいタイプだと思うんだよね」



そんな様子を、兄貴は面白そうに笑っていた。


血の繋がらない妹との同居なんて、どこのエロゲかと思っていたが、なかなかどうして恐ろしいものである。