「ってわけで宜しくしてやって!」



すとん と少女を床に下ろして、機織はドアを開ける。


にゃはは、行くわよハニー! と母は疾風の如く去っていった。

父は、はいはい、ダーリン と霧の如く気付けばいなくなっていた。



待っての「ま」の字も言えずに残された子供達は…

敵前逃亡

勿論、固まっていた。


ついぞそこにいた両親は一分足らずにまた出て行ってしまった。

ほとほと と大粒の涙を零す少女と、内側に凹ませたドアを残して。


軋識は半ば現実逃避に、作文の添削… と場違いな考えを巡らせていた。



「あ!」



と、突然人識が叫ぶ。

軋識と双識が人識を見つめ、少女は小さな体を大きく揺らして、また大粒の涙を零した。



「こげくさい!!」

「は?」

「たいしょう!やきそば!」

「あ」

「いくぞたいしょう、おれがやきそばをよんでいる!」

「逆だっちゃ、人識」



げきとつー! という人識を筆頭に、激突はしてくれるなっちゃ と軋識も逃げるようにリビングへ駆けて行ってしまう。



「ちょっ二人とも!待って、私、も…?」



このままではこの子の事は全て自分任せになってしまう。

そんな気がして、双識も慌ててリビングへ向かおうと体を反転させる。


と、くんっ と引っ掛かった。

嫌な予感… と双識が首だけそちらに向けると、少女が小さな手で双識の服の裾を掴んでいた。



「…………あ……あの?」

「……………っ…、っ」

「――――っっごめん、!」



バッ と掴まれていたその服を少女の手からもぎ取るように振り払う。


少女は振り払われるままに、ぐらり と体勢を崩して転んでしまう。



「っ…」

「…あ………っ、…」



そこを擦り剥いたのか、腕を押さえて目を伏せる少女から、双識は無理矢理に目を逸らした。



「ごめん」



小さな呟きは少女に果たして届いたか…

双識は少女に背を向けて、今度こそ、リビングへと駆けて行った。